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アメリカの中小企業製造業者がロボットの導入を躊躇するわけ

〜MITの研究チームが見つけたその理由とは〜

アメリカの中小企業製造業における完全な「ロボット革命」を阻んでいるものは何でしょう?何年も前から、ロボットの時代が来ると言われてきたのにも関わらず、ほとんどの製造現場に足を踏み入れても、期待されている(あるいは必要とされている)ほど多くのロボットシステムを目にすることはありません。一部の大規模な製造業を除いた他の中小規模の製造業は、生産をアメリカに戻したいと考えている中でもロボットやオートメーションへの投資を躊躇しており生産現場でのロボットへの投資はまだ思うように始まっていません。

マサチューセッツ工科大学(以下、MIT)の研究者はこのアメリカでの「ロボット革命」を阻んでいるものに対し、二つの興味深い理由を見つけました。以下それらについて説明していきます。

 

拡大する生産性格差

アメリカの国勢調査によると、中小企業はアメリカの全製造業の 98.4%を占め、全製造業労働者の 43%を雇用しています。これらの中小企業は、生産性の面では大企業の製造業に遅れをとっています。MITのチームは、1970年代には、大企業の生産性は中小企業の生産性を22%しか上回っていなかったのに対し、2012年には大企業と中小企業の生産性の格差は96%にまで跳ね上がっていると指摘しています。大企業だけが今後もロボットや自動化に多額の投資をしていけば、この格差は今後も拡大する一方です。

MITのチームが複数年にわたる研究で気づいたことは、大企業は、設備にロボットとオートメーションをより多く導入しただけでなく、同時に人員数も増加したということです。しかし、一方で中小企業の中ではロボットを業務に導入した企業は非常に少なかったのです。

これは、中小企業が製造技術をアップグレードしたり、従業員を増やしたりしなかったということではありません。多くの中小企業は、人員数を増やしCNC機械などの技術への投資を行っていました。しかし、ロボットは中小企業の製造現場に導入されませんでした。

ここでは、MITの研究者による、「ロボット革命」を阻んでいるもの、つまり中小規模の製造業がロボットやオートメーションへの投資を躊躇している理由である「人材開発の壁」「ロボットの再利用の難しさ」について詳細を解説します。

 

1. 人材開発の壁

中小企業の製造業のリーダーはロボット導入の際、ロボットシステムを最適に活用するための訓練を受けた人材がいないこと、そしてその訓練を受けた人材を採用することや、そのような人材を育成するためのコストを懸念しています。訓練を受けた労働力を得るためのコストは、ロボットシステム自体への支出に加えての総投資額を正当化するにはあまりにも大きなものになってしまいます。

アメリカのほとんどのCEOや政策立案者は、アメリカの製造業が世界的に競争するためには、より多くのロボット技術や自動化を導入しなければならないと考えていますが、コストを最適化するためには労働者はロボットシステムを最大限に活用できるスキルを持っていなければなりません。大企業では、ロボット導入と研修の両方のコストを払うことができますが、中小企業ではそれができないことが多いです。したがって、人材開発やロボットシステムへの投資を行うことができないのです。では、ロボットシステムを最適に活用するスキルを持った人材の育成に公共投資を行い、中小企業がその訓練された人材の中から雇用するというができれば良いのかというと、一概にそうは言えません。

アメリカの中小企業の経営者に、従業員にどのようなスキルを求めているかを尋ねたところ、ほとんどの経営者は特定の資格や学位を強調せず、「時間通りに出勤すること」や「労働倫理」などのソフトスキルを強調しました。候補者がこれらのソフトスキルを持っていれば、雇用主は会社が必要とするスキルを会社内での訓練で身につけさせることができると感じていたのです。これは、特定の機器を使用した経験のある人材を、直接の経験や専門学校のコースを通じて求めないということではなく、「肩書き」が重要視されなくなってきているということでした。

それは、中小企業が地元のコミュニティカレッジ(州や地方自治体が設立した二年制の教育施設であり日本では短大や専門学校と例えられる)に不満を感じており、準学士号が彼らのニーズにとっていかに無意味なものであるかを理解したからだと言えます。金属加工会社のオーナーは、地元の専門学校をこのように評価していました。

「その専門学校には良いCNCや溶接設備を持っていますが、実際には誰も訓練されていません。私たちは彼らを古い機械加工設備の担当にしようとしましたが、誰も興味を示しませんでした。彼らは3Dプリントのようなものに興味を示しましたが、うちは量産型で生産しているので3Dプリントで金型を安くすることもできない。3Dプリントの訓練を受けた子供たちは必要ありません。」

学校と雇用者が求めるもののこのようなスキルのミスマッチは、今に始まったことではありません。テクノロジーの進化が進み、新しいサービスや商品が生まれれば、労働者のスキルアップの必要性が急速に変化しているため、多くの中小企業は、社内でのトレーニングが必要となり、より多くのOJTを行うことを余儀なくされています。ある経営者が述べているように、候補者が「基本的な数学のスキル、基本的な適性と態度、そして時間通りに現れ、他の人とうまくやっていける人」であれば、会社が必要としていることをトレーニングすることができると考えています。

では、製造業の人材育成に関しては、今、教育機関はどのような役割を果たしていくべきでしょうか。中小企業の中には、地元の学校機関とチームを組んで、自分たちに合ったプログラムを構築することに成功しているところもあります。教育機関と協力して、企業により適したプログラムを開発することに成功している例もあります。しかし残念ながら、中小企業が労働力の問題に対処するために地元の教育機関と連携することなどの提携がアメリカ全国で十分に存在しているとは言えません。

人材開発の取り組みに関しては、従業員がロボットを新しい仕事に迅速に再利用できるようにするための会社でのトレーニングが必要です。トレーニングはロボットのプログラミングだけでなく、新しいエンドエフェクターの開発、センサーやガードのリセット、さらにはリスクアセスメントの実施方法まで含めて行う必要があります。これらのスキルはもちろんのこと、ロボットシステムの再プログラミングや再配備に関連するすべてのスキルを、今後の人材育成の一環としなければなりません。

ドイツや中国などの国々は、製造業、特に中小企業を支援するための国家戦略計画を策定し、自動化やロボットへの投資を支援しています。これらの計画には、雇用政策や人材開発に関するプログラムが含まれています。

中小企業が新しいロボットの導入だけでなく、生産現場の他の作業にも迅速にロボットを再導入できるように、柔軟なトレーニングプログラムを用意する必要があります。中小企業はコストも限られているため、会社での研修に時間をかける時間も人も足りないかもしれません。しかしこれらはオンライン学習の台頭により、このようなトレーニングの多くを遠隔で行い、それを全国規模で実施する方法があるのではないでしょうか。

 

e-learning

 

2. ロボットの再利用の難しさ

アメリカの中小企業は、ロボットへの投資を行わない人材開発以外の理由として、最初の導入後にロボットを他の作業に再利用したり、再プログラムしたりするのが難しいという点がありました。中小企業の多くは、多品種少量生産の工場であり、仕事から仕事へと迅速に移行するための柔軟性を必要としていました。そのため、最初の購入後にロボットを使わなくなってしまうのではないかという懸念があるのです。

これらの企業は長期/大量生産を行わない限り、ロボットの費用を正当化することはできません。エンドエフェクター、センサー、安全装置、設置コスト、トレーニングコストを加えた場合、ロボット自体が総導入コストの4分の1程度しか占めないためです。そのため、中小企業が再利用コストを上手くコントロールする方法を見つけ出すことができれば、自社の業務におけるロボットの数を増やすという議論がより具体的なものになっていく可能性があります。

アメリカの中小企業は未だにロボットへの投資はリスクが高いと考えています。ロボットを長期的に使用するような大規模な号令がない限り、システムに関連するコスト(トレーニング費用を含む)をすべて正当化することはできません。最初に購入した仕事が終わった後、ロボットが邪魔者になってしまうのではないかという強い懸念があるのです。使わないロボットは誰のためにもなりません。

ロボットの導入への抵抗を克服する

アメリカの設置型ロボットの成長はここ数年で鈍化しています。2017年から2019年にかけて、アメリカでは製造業の労働者1万人あたりに設置されているロボットが200台だったのが、228台になりました。これは、2年間でわずか14%の成長です。これを、すでに他の国をリードしていた韓国と比較すると、同じ期間にロボットの設置台数が20%増加しています。さらに注目すべきは、中国が同じ基準で93%成長していることです。

アメリカの政策立案者が製造業の雇用を再構築することを目標としているのであれば、他の国々に「自動化」されることはアメリカの再構築をより困難なものにします。雇用を再構築するためには、アメリカの製造業はロボット工学への投資を増やし、業務をより生産性の高いものにしなければなりません。さらに、製造業の大企業と中小企業の間の生産性格差を縮小する必要があります。

さらに、大規模な製造会社と中小企業の間の生産性のギャップを先に述べたように、アメリカの製造業中小企業は、国内の製造業のほぼ99%を占め、雇用のほぼ半分を占めています。アメリカがロボット設置の針を動かし、生産性格差を縮めるためには、政府の可能な支援を中小企業レベルで行わなければなりません。

ロボットとオートメーションの導入レベルを高めるためには、人材開発のサポートが必要であり、それを実施する必要があります。継続的な人材開発とトレーニングは、中小企業と大企業の両方の生産性を向上させ、コストを理由としたロボット工学と自動化の導入への消極的な姿勢を克服するために大いに役立つでしょう。

ロボットによる自動化技術の導入率を高めるためには、アメリカの製造業者、特に中小企業は、会社でのトレーニング支援を実施し、行動しなければなりません。会社でのトレーニング支援を実施することにより初めて、ロボット・オートメーションのビジネス価値は、中小企業におけるコストを理由としたロボットの導入への消極的な姿勢を克服することができるのです。

日本でも同様の課題

これまではアメリカの中小企業がロボットの導入を躊躇する理由として、「人材開発の壁」「ロボットの再利用の難しさ」を説明しました。それらの解決策として、トレーニングのオンライン学習を全国規模で実施する方法であったり、地元の教育機関とチームを組んで、自分たちに合ったプログラムを構築する方法を作り出すことなどが挙げられています。

 

日本はアメリカよりも中小企業で働く人の割合は多いとされ、中小企業が日本経済の大きな要となっています。日本の中小企業の労働の質を高めることてマクロ経済的にも大きな労働生産性上昇が期待ができます。そのためにはアメリカ同様、中小企業におけるロボット革命とそのロボットを扱うことができるような人材を訓練促進することが重要となっていきます。

ManuTechは日本の製造業、特に中小の製造業の海外との取引拡大を統合的に支援するオンラインプラットフォーム「ManuTech」、製造業の技術者、開発者向けの技術検索エンジン「ManuTech βeta」の提供、製造業向けのオウンドメディアも運営しています。ManuTechは後も日本の製造業界のスマート化、デジタルトランスフォメーション化のための発信をしていきたいと思います。

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Written by 日比 章善

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